硝子体手術
硝子体手術
硝子体(しょうしたい)は、コラーゲン線維と水を含んだヒアルロン酸を成分とするゼリー状の透明な組織です。水晶体よりも奥(後ろ側)の部分(硝子体腔)を満たし、眼球の容積の大半を占めています。前方は水晶体に接し、後方の大部分は網膜および視神経と接触しています。硝子体は加齢や疾患によって変性し、網膜を引っ張ったり、濁ったりすることで目の障害を引き起こします。この変性してしまった硝子体を除去する手術が硝子体手術です。同時に網膜に生じた病変も治療します。
硝子体手術は、眼科領域で最も高度な手術で、特別な技術と設備を要します。現在に至っては、さまざまな手術機器や手技の発展により、安全性が高まり、成績もかなり向上してきております。そのため日帰り手術が当たり前になってきております。
実際の手術は、眼球の白目部分に小さな3カ所の穴を空けます。1つ目の穴には、灌流ラインを設置して、常時、眼内に人工の硝子体液を供給し、眼内の形態と眼圧を一定に保つようにします。2つ目の穴には照明器具を挿入し、眼内を明るく照らします。3つ目の穴には硝子体カッターと呼ばれる器具を挿入します。この器具で、出血や混濁した硝子体を切除して吸引除去します。また、疾患によって、網膜上に張った膜をピンセットで除去したり、網膜に空いた裂孔部分をレーザーで固めたりします。
通常、局所麻酔で行われます。手術時間は疾患によりますが、白内障手術を加えても20分〜40分程度です。※重症の場合は2時間かかる場合もあります。
また、硝子体手術後に白内障が進行するともいわれているため、ピント調節力がなくなる50歳以上の方には、白内障がなくても白内障の同時手術を行うのが標準となっています。しかし、若い方の水晶体は温存いたします。
加齢などによって硝子体が縮み、硝子体が網膜から離れることによって起こる疾患です。網膜の表面に残った硝子体の細胞が増殖し、セロハンのような膜(黄斑前膜)が形成されることで、物が歪んで見える(歪視症)、物がはっきり見えない(コントラスト低下)などの症状が出現し、視力低下を来します。歪視症は手術しても完全には良くならないので、視力が低下する前に手術を勧めます。硝子体手術では張り付いている黄斑前膜を除去し、縮んだ網膜を進展させ、症状を緩和させます。
黄斑円孔は硝子体の変化や黄斑部に膜形成が生じで、網膜の黄斑部に小さな穴(円孔)が生じる疾患です。加齢などによって硝子体が縮むときに、網膜が一緒に牽引され(引っ張られ)、黄斑部に亀裂が生じ、円孔が生じます。進行具合によって症状は様々ですが、急に視力が悪くなったり、視野の中心が黒く見えたり、物が歪んで見えたりします。硝子体手術で、原因となった硝子体を切除し、黄斑部に特殊な処置を施し、眼の中にガスを入れます。術後はうつ伏せを行い、円孔閉鎖を促し、視力の改善を図ります。
眼球内部には硝子体というゼリー状のものがあり、加齢変化で収縮します。網膜と硝子体が強く接着している部位が、この硝子体の収縮が原因で裂け目が生じてしまい、網膜が剝がれていきます。進行するにつれて視界に異物が見えたり、視野が狭くなったり、視力が落ちてきたりします。放置すれば失明に至る危険性がありますので、早めに手術を行うことが必要です。最近の研究では数日あけてもしっかりと準備して手術を行った方がいいと言われています。手術は牽引している硝子体を切除していきます。直接的に網膜を処理し、裂け目から網膜下液を抜いて、眼内を空気にして抑えつけます。術後はうつ伏せ姿勢を数日間〜1週間しないといけないことがあります。
硝子体手術が必要な糖尿病網膜症は、重症例のことが多いです。光の通り道である硝子体が出血している場合、網膜に増殖膜という組織がはびこり網膜剥離が生じた場合、さらに進行して新生血管緑内障に移行するような場合に硝子体手術を行います。硝子体に広がった出血や増殖膜を取り除き、剥離した網膜を元の場所にして、網膜全体にレーザー光線を当てて網膜を凝固する治療(汎網膜光凝固術)を行います。
網膜の静脈が詰まって血液が流れなくなる疾患です。血管が枝分かれしたところがつまってしまう網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)と血管の中心部がつまる網膜中心静脈閉塞症(CRVO)とがあります。高血圧や動脈硬化、糖尿病のある方に多いとされています。網膜の黄斑部に出血やむくみを発症した場合、視力が著しく低下します。血管新生緑内障や硝子体出血などを合併した場合は、硝子体手術を行います。
加齢黄斑変性の新生血管の破綻や網膜細動脈瘤の破綻により、網膜下に出血が生じてしまう疾患です。長い間網膜下、特に黄斑部に出血が滞在してしまうと、網膜の神経障害が生じてしまい、見たい中心部分の視力がなくなります。なるべく早急に硝子体手術を行います。出血した網膜に直接、血栓を溶かす薬を注入して、血栓を黄斑部から移動させます。加齢黄斑変性が原因である場合は、術後に抗VEGF薬の注射が必要になります。
現在、硝子体手術は広く安全に行われていますが、合併症が起こることもあります。出血や感染、網膜剥離、角膜障害、緑内障、黄斑浮腫などが代表的なものといえます。このうち出血や感染など、術後の見え方に影響を及ぼす合併症は実際には極めて稀で、通常、あまりご心配いただく必要はありません。それ以外の合併症においても、適切な治療を行うことで十分対応が可能ですので、どうぞご安心ください。
眼内に存在する濁りや混濁で飛蚊症は生じます。その濁りや混濁を衝撃波で粉々にする方法はありますが、症状が残ることがあります。硝子体手術で直接、原因を取り除くことで症状の緩和が見込まれます。しかし、若い方は硝子体がしっかりしているので難易度が増します。レンズ(水晶体)は触らないのですが、硝子体手術後は水晶体が混濁して白内障になりやすいので、若い方にはお勧めいたしません。
硝子体手術に特殊な眼内レンズを選ぶ場合は自由診療になります。手術をする疾患にもよりますが、術後に視力が出にくい疾患にはお勧めいたしません。